こんにちは。ヒトツメです。
いよいよテキストも3冊目に入りまして、そろそろ商業簿記・会計学の分野の学習が一通り終わりそうですが、今日は、少し迷いやすい自己株式の処理について投稿していきたいと思います。
自己株式というと、法的には新株発行の場合と同様の規制を受けるなどといわれていたりしますが、経理処理の観点で見ると、単に処分する場合と吸収合併などの対価として処分する場合とでは、処理が大きく異なります。
今日はなぜ処理が異なるのか、という観点で、二つの経理処理の違いについて考えていきたいと思います。
通常の処分の場合とその理由
そもそも、自己株式とは、自社が発行した株式を、自ら取得した場合をいいます。自己株式は、純資産の部の株主資本の末尾において、控除する形式で表示するものとされており、他社の株式を保有している場合などとは、異なる表記の仕方をします。
帳簿価額で売却する場合
このような自己株式を処分、つまり誰かに売却する場合、帳簿価額のまま売却する場合には、単に自己株式を減らし、その分現金などを増やすといった処理をします。これに伴って、ほかに手数料などが発生する場合は、支払手数料などで処理し、自己株式の減少量などには影響させないという処理をします。
例えば、帳簿価額1,000円の自己株式を10株、10,000円で売却し、その際に手数料として500円発生したという場合、次のような仕訳を行います。
<自己株式の処分>
現金 / 10,000
支払手数料 / 500
自己株式 / 10,000
現金 / 500
評価差益や評価差損が出る場合
これに対して、帳簿価額とは異なる場合で売却する場合、差額については、その他資本剰余金で処理するものとされています。
例えば、帳簿価額1,000円の自己株式を10株、11,000円で売却し、その際に手数料として500円発生したという場合、次のような仕訳を行います。
<自己株式の処分>
現金 / 11,000
支払手数料 / 500
自己株式 / 10,000
その他資本剰余金 / 1,000
現金 / 500
上記の例とは逆に、評価差損が出る場合、借方において、その他資本剰余金を記載する方法で、自己株式の処分については仕訳を行います。
新株発行とは大きく異なる
法律的に見ると、自己株式の処分の場合、新株発行の場合と同様に、株主総会決議が必要だとされています(会社法199条3項)。これは、自己株式を処分することによって、もともと株式を保有していた人たちの権利が薄まってしまう可能性があり、その性格は新株発行の場合と同じようにみることができる、という理由に基づくものであるとされています。
一方で、経理処理の場合、新株発行をする場合は、最終的に資本金になるように仕訳を行いますが、自己株式の処分の場合には、評価差損や評価差益をその他資本剰余金として処理するものの、払い込まれた金銭を資本金になるように処理することはありません。
これは、冒頭で「純資産の部の株主資本の末尾において、控除する形式で表示する」というところと関係しているのですが、自己株式を保有している場合、その株式は流通はしていないものの、その分の帳簿価額が資本金に組み込まれているということに起因するものです。自己株式がある、という時点で、その分の資本金もすでにあり、単に純資産の部で控除しているだけなので、それを処分したからと言って、資本金の額に変動は生じないということです。
なので、評価差益や評価差損が出た場合に、その他資本剰余金の中で処理をしないと、その企業における純資産額に齟齬が出てしまうため、上記のような処理をするということになります。
合併対価として自己株式を処分する場合
これに対して、合併対価として自己株式を処分する場合、評価差益や評価差損によってその他資本剰余金を考慮することはありません。
仕訳の例
例えば、諸資産額50,000円、諸負債額が35,000円の企業を吸収合併し、合併対価として消滅会社の株主に自己株式(帳簿価額@1,800円)を10株交付したという例であれば、次のように仕訳を行います。
<合併対価として自己株式を交付>
諸資産 / 50,000
のれん / 3,000
諸負債 / 35,000
自己株式 / 18,000
もちろん、自己株式の交付だけで合併を行うというケースはレアだと思いますが、仮にそのような処理が行われた場合、その時に交付される自己株式は、あくまで帳簿価額で評価され、消滅会社の諸資産と諸負債の差額(つまり純資産額)との差額は、のれんとして評価されます。
取得する企業の価値の純資産額との差額は、のれんとして評価し、純資産額以上の価値があると評価した部分は、消滅会社特有の価値と評価し、決して、「自己株式を帳簿価額とは異なる額で処分した」という評価はしません。
評価差額は株式数などで評価されるべき
これは、基本的に合併の際には、純資産額やのれんの算定がきちんと行われており、株式交付の際の株式数なども、それに基づいて行われているはずだ、という考えに基づくものと考えられます。つまり、自己株式が帳簿価額とは異なる額で処分されることはありえず、仮にそのようなことがなされるのであれば、株式交付の際の株式数においてきちんと反映をするべきである、ということです。
もちろん、そうやって考えると、吸収合併に伴って自己株式を交付する場合、存続会社の自己株式の帳簿価額と実際の価値との差額までもが、消滅企業ののれんに反映してしまうということになりますが、そのあたりを考慮しながら仕訳を行うのは、それこそ恣意的な仕訳を引き起こしてしまう可能性がありますし、あまり合理的ではありません。
市場取引をするわけではない以上、自己株式の評価は帳簿価額で行い、合併によって生じる差額は、のれんとして吸収するべきだ、ということです。
さいごに
自己株式の処分に限らず、合併などの組織再編の場合は、経理処理がややこしくなるケースが多いです。なかなか全部を覚えるのは大変ですが、具体的な例を交えながら考えていくと、なるほど、と思う部分が多いです。
時には、法律がどうなっているかなども参照しつつ、違う視点を持ってみると面白いかもしれません。
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