【簿記1級合格への道】金利調整差額とは何か

簿記試験

こんにちは。ヒトツメです。

教科書を読み進めつつ、ポイントとなるところについて復習を進めながら勉強していくということで、前回は総記法について考えてみたわけですが、今日は金利調整差額について考えてみたいと思います。

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使う場所と考え方

社債発行の場合や満期保有目的債券の場合

金利調整差額という考え方が出てくるのは、主に、社債発行の場合は、満期保有目的債券の場合です。なかなか日常生活を送っている中で出てくることはないですが、社債を発行する場合や債券を取得する場合、額面金額と取得金額が異なる場合があります。例えば、10,000円の額面金額の社債を、9,600円で発行するといった場合です。
このような場合に、その差額を金利調整差額として処理し、主に利息法によって処理するということが必要となってきます。

ただ、注意すべきは、この差額が、金利の調整として認められるときでなければ、このような処理をすることはありません。
金融商品に関する会計基準16では、満期保有目的債券に関して、次のように規定しています。

満期まで所有する意図をもって保有する社債その他の債券(以下「満期保有目的の債券」という。)は、取得原価をもって貸借対照表価額とする。ただし、債券を債券金額より低い価額又は高い価額で取得した場合において、取得価額と債券金額との差額の性格が金利の調整と認められるときは、償却原価法に基づいて算定された価額をもって貸借対照表価額としなければならない。

金融商品に関する会計基準 / https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/fv-kaiji.pdf

金利調整差額を利息法で処理するときの考え方

「金利の調整として認められる」という意味は後程考えるとして、実際に、金利調整差額を利息法で処理する場合の考え方を整理したいと思います。

当社は、他社の社債を2021年4月1日(期首)に取得し、満期保有目的債券で所有している。次の場合、2021年9月30日(利払日)と2022年3月31日(利払日=決算日)における仕訳をする。

[資料]
(1) 取得金額 :19,200円
(2) 額面金額 :20,000円
(3) 満期日  :2024年3月31日
(4) 実行利子率:年7.52%
(5) 額面利子率:年6%
(6) 利払い日 :毎年9月末日と3月末日の年2回
(7) 取得金額と額面金額の差額は、全て金利調整差額と認められ、償却方法は利息法による

この時の処理の仕方としては、額面利子率によって受け取る金額を社債利息(当社側から見ると有価証券利息)として処理しつつ、実行利子率によって得られる金額との差額を金利調整差額として把握し、その分の社債利息(当社側から見ると有価証券利息)を受け取ったものとしてみなし、その分社債(当社側から見ると満期保有目的債券)の帳簿価額を増加させます。

具体的な仕訳としては、次の通りとなります。

<2021年9月30日>

現金 / 600
満期保有目的債券 / 121

有価証券利息 / 600
有価証券利息 / 121

※19,200円×7.52%×6か月/12か月=721円
 20,000円×6.00%×6か月/12か月=600円
 721円ー600円=121円を帳簿価額に加算(この時、19,321円)

<2022年3月30日>

現金 / 600
満期保有目的債券 / 126

有価証券利息 / 600
有価証券利息 / 126

※19,321円×7.52%×6か月/12か月=726円
 20,000円×6.00%×6か月/12か月=600円
 726円ー600円=126円を帳簿価額に加算(この時、19,447円)

満期までこの処理を繰り返すと、最終的に、2024年3月31日に、満期保有目的債券の金額は、額面金額と同じ20,000円になります(繰り下げなどの関係で、正確には20,001円となるため、最後の利払日の時に、帳簿価額を1円下げて処理)。

取得価額と債券金額との差額の性格が金利の調整と認められるとは?

このように、処理だけ暗記してしまえば、これで終了なのですが、問題は、「取得価額と債券金額との差額の性格が金利の調整と認められる」とはどういう場合か、です。同じ有価証券でも、売買目的有価証券ではこのようなことはしませんし、具体的にどのような場合に取得価額と債券金額との差額の性格を考える必要があるかがわからなければ、試験本番で分からなくなってしまう可能性があります。

差額と利息は別物

そこで、教科書的な説明をすると、仮にこの19,200円を銀行に預けたり、運用したり、自由に使えるとすると3年後に20,000円になっていると考えられる、といった話が出てきます。確かにこれは正しい説明だと思います。「今貰える19,200円と、3年後にもらえる20,000円と、どっちをとる??」といった質問をした時に、どちらも同じ価値だと考えられるのであれば、最終的に3年後の有価証券の帳簿価額が20,000円になるように、利払と同じタイミングで、有価証券の帳簿価額を加算していく、といったお話です。

ただ、この説明のわかりにくい点は、有価証券の場合、有価証券利息があるため、結局、19,200円をそのまま持っておくよりは、20,000円の額面金額の有価証券を持っておいた方が得になるため、そのあたりを混同しやすいという点です。結局有価証券を持っておいた方が、有価証券利息を受け取れる関係で得なのであれば、利息によって得られる得と、金利の関係で得られる得とを分けて考えるのは、あまり直感的ではないということです。

もしもタイムマシンがあったら

そこで、昔よくしたであろう、こんな話を想像するとわかりやすくなるかもしれません。
「もしタイムマシンがあって、且つ昭和初期にい製造された10円玉を大量に持っていたら、10円玉が製造された年にそれをもっていけば、大金持ちになれるかもしれない」という話です。今も昔も同じ10円ですが、昔の方がその価値ははるかに高いです。逆に、バブル期に当時製造の貨幣をもっていっても、今ほどの価値はないと考えられています。

このように、時代によって貨幣の価値は変動しますが、この時、短期的に見れば、「貨幣の価値は緩やかに下がっていく」という前提で話が進んでいるというのが、この金利調整差額のミソです。少なくとも銀行に預けていれば利息が付きますし、経済が回っていく以上、貨幣の価値は下がり、物価は上がり続けなければなりません。
そのことを考慮すると、3年後に受け取れる20,000円には、今は19,200円の価値しかない、逆に言えば今19,200円で買えるものは、3年後には20,000円に上がっていないとおかしいと考えられているということです。

あくまで、取得のタイミングで額面に記載されている金額は、「将来の20,000円」であって、「今の20,000円」ではありません。3年後の20,000円は、実行利子率7.52%、額面利子率6%の世界では、今、19,200円の価値しかなく、また、1年後には、先ほどの仕訳の最後に出てきた19,447円と同じ価値だということです。

金利調整差額の処理をする場合・しない場合

そう考えると、売買目的有価証券では金利調整差額の処理をしないことは明らかです。あくまで「将来の20,000円」を得るために保有しているのではなく、どこかのタイミングで有価証券の価格が取得の価格よりも上がることを見越して保有しているだけであり、時と共にその価値が変化することを期待していないからです。
逆に、退職給付会計の際に、勤務費用と利息費用を分けて計上しますが、これも、時と共に徐々に目減りする貨幣価値を、経理処理の中でも把握しながら処理することが目的だと考えられます。

さいごに

金利調整差額の処理は、1円単位切り捨てなどをしなければならず、若干のわずらわしさがあり、学ぶ側にとってもなんとなく毛嫌いしてしまう傾向があるように思います。確かに計算は面倒ですが、出題者の意図をくみ取れないと計算がおかしくなるようなケースも多く、自分の考えが当てはまると意外とスッキリ解けたりします。

ただの暗記ではないという意味でも、出題者は出題しやすい分野でもありますし、考え方自体は色々と敷衍させることがしやすいので、きちんと理解しておいた方がよさそうだと思います。

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