【簿記1級合格への道】分配可能額の考え方について

簿記試験

こんにちは。ヒトツメです。
前回は、会計基準の条文素読という少し変わった勉強方法を紹介しましたが、今日は、会計基準ではなく、会社法上の規制に基づく、分配可能額のお話です。

簿記1級の試験では、分配可能額については、「のれん等調整額」による分配可能額の制限という形で、稀に出題されます。頻出ではありませんが、少しややこしいので、まとめていきたいと思います。

スポンサーリンク

テキスト的な解説

まずはじめに、分配可能額と「のれん等調整額」についてテキスト的な解説を一通り見ていきたいと思います。原則として、会社では、「その他資本剰余金」と「その他利益剰余金」の額を株主に分配することが出来るとされていますが、「のれん等調整額」は、ある一定の理由から、これらの額を制限し、分配可能な金額を控除するために用いられるものです。
「のれん等調整額」は、「のれん」の半分と「繰延資産」の合計を足して計算します。これが、①資本等金額(資本金+資本準備金+利益準備金)より小さいか、②資本等金額より大きいが資本等金額にその他資本剰余金を足したものより小さいか、③資本等金額にその他資本剰余金を足したものより大きいかによって、それぞれ、異なる処理が行われます。

これらの状況に応じて、①の場合は制限額ゼロ、②と③の場合は「のれん等調整額」から「資本等金額」を引いた金額分、分配可能額が控除されます。ただし、③の場合は、のれんの半額が「資本等金額+その他資本剰余金」の額を超える場合は、「その他資本剰余金+繰延資産」と同じ金額、控除を受けるとされています。
すなわち、「のれんの半額」の存在によって控除を受ける場合の上限は、その他資本剰余金の額となるということです。

債権者保護の目的

ただ、大抵のテキストではここまでしか書いておらず、計算方法を覚えるだけだと、なかなか記憶に残りません。もっとも、株主への分配可能額に関しては、世界的に見ても制度はバラバラで、このような計算をするのも、日本独自の考え方です。
というのも、これは債権者と株主と、どういう場合にどちらを保護するべきかという政策的な判断に基づくもので、決して会計処理のような共通言語での処理を目的としているものではないからです。
したがって、このような問題を解決するためには、会社法の教科書を読み解く必要があります。

そこで会社法の教科書を読み解いてみると、そもそもの分配可能額の考え方については、次のような趣旨で作られていることが分かります。
まず出発点として、会社は最終事業年度の末日の剰余金(その他資本剰余金とその他利益剰余金)の額を原則として株主に分配できます。ただし、会社債権者保護上控除すべき額及び、最終事業年度の末日後の剰余金の減少額を控除しなければならず、一方で、債権者異議手続きを経た最終事業年度の末日後の剰余金の増加額を加算することができます。
「のれん等調整額」による分配可能額の制限は、このうち、「会社債権者保護上控除すべき額」に該当します。

すなわち、資産として計上されたのれんのすべてが、経済的価値のあるものかどうかが疑わしいことから、その半額を分配可能額から控除し、また、繰延資産には換金性がないことから、これもまた分配可能額から控除するということです。のれんについては疑わしいから全部ではなく半分となっていますが、要は、準備金とは名ばかりで、見掛け倒しの資産を積み上げて底上げしている可能性があるから、それを排除して分配可能額を定めている、ということです。
のれんによって控除される額がその他資本剰余金を上限としているのも、超えている部分には、経済的価値があると判定しても問題ないだろう、という判断に基づくもの、と考えられます。

自己株式の処分の場合

一方で、自己株式を処分した場合は、上記の説明でいうと、「最終事業年度の末日後の剰余金の減少額」が発生しているという整理になります。そもそも上記の「のれん等調整額」による制限だけではなく、自己株式を保有している場合も、その分帳簿上剰余金が増えているだけの可能性があることから、分配可能額をその価額分控除しますが、たとえそれを売却などによって処分したとしても、消却した場合と経済的な効果は変わらず、その分分配可能額を増やすのは、理に反するからです。

さいごに

簿記1級ではあまり細かな論点まで聞かれることはありませんが、何度か出題されたことがありますし、のれん等調整額による制限の計算方法はしっかりと身に付けておく必要があります。
また、配当の計算にあたっては、それに伴って準備金の額に変動が生ずるので注意が必要です。すなわち、資本金の4分の1に満まで、配当額の10分の1と同じ金額を、資本準備金もしくは利益準備金として積み立てる必要があるとされており、単に配当額が剰余金から減るわけではないという点に注意が必要です。

配当は会計基準ではなく会社法に基づくものが多く、少し毛色が違う場合も多いですが、しっかりと身に付けないと計算できないというのが多々あるので、覚えておく必要があります。

コメント

タイトルとURLをコピーしました