【簿記1級合格への道】退職給付の解き方

簿記試験

こんにちは。ヒトツメです。
今日は前回に続き、退職給付の問題の解き方についてまとめていきたいと思います。
前回取り上げた連結会計は論点も多く、色々なところに影響を及ぼしますが、退職給付は、有価証券や固定資産と同様、あまりほかの論点に影響を及ぼさないので、確実に正答までたどり着き、得点源としたい分野です。

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わかりにくい用語の定義

そんな退職給付の問題ですが、問題を解く手順自体はそこまで難しくないですし、計算も複雑ではありません。ただ、用語が分かりにくく、また、簿記1級試験では独特な書き方で状況説明がされることが多く、それらの意味が分からなければ問題が解けないということが良くあります。
そういう場合は、会計基準に立ち返り、一つ一つ用語を見ていくことが重要です。

退職給付引当金

そこでまず最初に理解するべき用語として、退職給付引当金という用語があります。
残念ながら会計基準ではしっかりと項目を分けて定義が記載されているわけではありませんが、問題を解くうえで、おそらく一番重要な用語です。
退職給付に関する会計基準の39では、次のように記載されています。

個別貸借対照表上、退職給付債務に未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用を加減した額から、年金資産の額を控除した額を負債として計上する。ただし、年金資産の額が退職給付債務に未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用を加減した額を超える場合には、資産として計上する。

退職給付に関する会計基準の39(1)

個別貸借対照表に負債として計上される額については「退職給付引当金」の科目をもって固定負債に計上し、資産として計上される額については「前払年金費用」等の適当な科目をもって固定資産に計上する。

退職給付に関する会計基準の39(3)

これら二つの記載から、退職給付引当金は次のような性質を持つということが分かります。

  • 個別貸借対照表上に負債として計上される
  • 退職給付債務に未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用を加減した額から、年金資産の額を控除した額となる
  • 反対の用語は「前払年金費用」となる

これだけだとよくわからず、結局は退職給付債務とは何かを理解する必要がありますが、結論から言うと、退職給付引当金とは、将来の支出額である退職給付の見込額のうち、当期以前の期間に費用として負担したものいいます。つまり、今まで働いてくれたけどまだ払っていないから負債となっている退職給付の見込額を言います。

退職給付債務

次に、なぜ「退職給付債務に未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用を加減した額から、年金資産の額を控除した額」という退職給付引当金の説明から、その定義が「今まで働いてくれたけどまだ払っていないから負債となっている退職給付の見込額」となるかを理解するために、順に用語を見ていきますが、最初に出てくる退職給付債務とは、会計基準上、「退職給付のうち、認識時点までに発生していると認められる部分を割り引いたもの」をいうとされています。
要は、「今まで働いてくれたけどまだ払っていないから負債となっているもの」のうち、純粋な債務部分を現在価値に割り引いたもの、と理解することができます。

未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用

退職給付引当金を計算するためには、このような退職給付債務から、未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用を加減する必要があるとされています。
これらはそれぞれ、今まで働いてくれたけどまだ払っていないから負債となっているもの」のうち、「未認識」つまり、計算書上表れていない部分を指します。これらを加減しないと、正確に「今計上するべき負債」の額はわからないというわけです。

年金資産

最後に年金資産を控除する必要があるとされています。これは「特定の退職給付制度のために、その制度について企業と従業員との契約(退職金規程等)等に基づき積み立てられた、特定の資産」を言うとされており、退職給付のためにやっている積立金の事を言います。

まとめ

以上をまとめると次の図のようになります。

問題の解き方

勤務費用+利息費用ー期待運用収益

用語の定義が整理できたところで、このような退職給付が、どのように損益計算書上に影響を及ぼすかを見ていく必要があるわけですが、よく書かれるのが、「勤務費用+利息費用ー期待運用収益」という、退職給付費用の計算式です。
これは、期首から期末にかけて変動する、退職給付引当金の変動額を表します。
勤務費用はそのまま、その時働いてくれたことによって退職給付引当金が増加する額を言います。一方の利息費用は、退職給付債務を、期首における現在価値から期末における現在価値に変更するときに退職給付債務に足しこむべき金額を言います。最後に、期待運用収益とは、年金資産の運用により生じると合理的に期待される計算上の収益で、退職給付引当金から控除すべきものをいいます。

これらは問題文に割と素直に書いてあるので、しっかりと問題文から拾って計算すれば問題ありません。

未認識数理上の差異

さらにここから、未認識数理上の差異についても、問題文の指示に従って、損益計算書上の影響額、つまり退職給付費用に加減する必要があります。
ここで、独特の記載がされることが多いため、注意が必要です。

まず、借方差異・貸方差異という記載です。これはもう覚えるしかなく、借方差異は不足なので退職給付費用に足す、貸方差異は過剰なので退職給付費用から引く、という処理をします。
ちなみに、借方差異、つまり退職給付引当金に不足が生じている場合は、その期の退職給付費用を増やして、退職給付引当金を増やす必要があり、逆の処理になるので注意が必要です。

次によく書かれるのが、割引率の引き上げ・引き下げです。割引率とはつまり、退職給付債務を現在価値に引き直すための数字を指します。これが下がると、「今引当金として計上しておくべき金額が上がる」という効果が置きます。つまり、退職給付引当金が足りなくなるので、退職給付債務が増えます。
また、期待運用収益を上回った・下回ったという書き方がされるときもあります。今までの流れでわかると思いますが、実運用収益が期待運用収益を上回れば、退職給付引当金は過剰な状態となります。したがって、退職給付引当金は多い状態となっているため、退職給付債務は減ります。

税効果との関係

なお、退職給付引当金に関しては、引当金に組み入れられている間は税法上損金として算入されず、実際に払って金額のみ損金に算入されます。したがって、退職給付費用として計上した金額は、損金に算入されず、法人税等調整額を処理する必要があります。
退職給付費用に税率を掛けた金額を、(借)繰延税金資産(貸)法人税等調整額として処理するだけですが、忘れないように注意する必要があります。

さいごに

退職給付の問題は、このように、問題の計算自体はむつかしくないものの、用語の定義がややこしく、また、独特の表現で状況説明されることがあり、足すのか引くのかすぐにわからなくなってしまいます。そういう場合は、基本に立ち返り、「今、退職給付引当金は足りているのか?足りていないのか?」と考えると、意外とスムーズに解けたりします。

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