前回は、労働者災害補償保険法の概要について解説しました。
今回は、そこで解説した5つのパターンのうち、療養給付・休業給付・障害給付について解説します。
怪我や病気の場合
治すこと+生活保障
業務や通勤を要因として、怪我を負ったり病気になったりした場合、労災保険法は、二つの保険を用意しています。
それが、療養給付と休業給付です。
要するに、怪我や病気を治すために必要な補償を行い、同時に、怪我や病気が原因で働けない場合の生活保障を行うことを目的としています。
療養給付は現物支給が原則
「保険」や「必要な補償」というと、お金というイメージがあるかもしれませんが、労災保険法が原則としている療養給付は、現物給付です。
つまり、「無料で治療を受けられる」ということです。
ただ、労災であることを証明して、すべての病院で治療が受けられるかというと、病院側の都合もあり、なかなかそうはいきません。
なので、「指定病院等」として、特別に定められた病院でのみ、給付を受けることができるという制度となっています。
例外的に、指定病院等が近くになく、治療を受けられない場合については、現金給付の形式で受けることができます。
生活保障は60%が基準
その上で、働けない分の生活を保障するための制度が、休業給付です。
3日以内の休業の場合、事業主による休業補償が用意されているので、4日目以降について、労災保険法による休業給付が発生します。
労働の全部または一部ができないことにより、受け取れなかった給与について、平均賃金の60%に満たなかった場合、満たない部分を休業給付として受け取れます。
平均賃金の考え方は労基法と基本的には同じで、3か月の賃金を3か月の暦日で割った金額が平均賃金となります。
ちなみに、通勤災害で療養給付も受けている場合、200円(日雇特例保険者の場合は100円)の一部負担金が発生し、休業給付から控除されます。
治せない場合の保険
治癒したと言えるかどうかで場合分け
労働災によって、怪我や病気になった場合の保険は原則として以上の通りですが、時には、怪我や病気が治せない場合があります。
治療が長期にわたったり、障害が残ってしまったりするケースです。
この場合、労災保険法は、「治癒」がなされたかどうかによって場合分けをして、給付を行います。
ここでの「治癒」とは、症状の安定化を言い、症状の改善が見られなくなることを言います。
災害発生後、1年6か月経過しても治癒しない場合は「傷病等年金」が、治っても障害が残る場合は、「障害等給付」が給付されます。
障害等給付は年金or一時金
障害等給付は、年金または一時金で支払われるのが原則で、障害の等級によって異なります。
1級から7級であれば年金形式で、8級から14級であれば一時金形式で、給付が行われます。
ちなみに、一つの事故で複数の障害が残った場合、それぞれの障害等級に応じて、繰り上げが行われます。
13級以上だと1級繰り上げ、8級以上だと2級繰り上げ、5級以上だと3級繰り上げになります。
なので、例えば10級と12級の併合の場合は9級の扱いになります。
前払一時金
原則は上記の通り、年金または一時金での支払いになりますが、障害の度合いに応じては、例えば自宅のリフォームが必要になったりと、初めの段階でまとまった金銭が必要になる場合が少なくありません。
なので、7級以上の障害の場合には、1回のみ、前払を請求することができ、これを、障害等前払一時金と言います。
また、7級以上の障害の場合で、本人が死亡した場合で、障害等級に応じた最高限度額に満たない場合、遺族に対して差額一時金が支払われる制度も存在します。
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