外貨建ての債権債務
為替予約の論点は簿記1級でよく出ますが、その前に、外貨建ての債権債務の処理について理解していないと、仕訳だけ見ても意味が分からないので、そこを正確に把握する必要があります。
といっても難しいわけではなく、取引のタイミングではその時の為替相場に基づいて債権債務を仕分けるものの、決算日や決済日では為替相場が変わっている場合があるので、その分を為替差損益として認識する必要があるというだけです。
例えば1ドル110円のときに100ドルの債務を負った場合、取引のタイミングで11,000円の債務の発生を認識します。
これが決算日においてまた期限が来ておらず、1ドル112円となっていた場合、支払うべき金額は11,200円となります。この時の差額200円については、為替差損として認識することになります。
さらに、決済日において、さらに1ドル115円になっていれば、最終的に支払うべき金額は11,500円です。この時さらに差額300円を為替差損として認識することになります。
為替予約をした場合
基本的な考え方
仕訳の処理方法はともかくとして、この時、為替予約をする意味は、決済日において11,500円という高い金額を払いたくないからです。
例えば、直物が1ドル111円、先物が112円のときに、上記の債務をヘッジするために為替予約するとすれば、最終的に支払うべき金額は11,200円となります。
これをどのように処理するべきか、というのが為替予約の考え方です。
振当処理(例外)
この時の処理としては、独立処理と振当処理のいずれかが認められています。
会計基準において、振当処理は例外処理だとされていますが、習慣的にこちらの方が実務では使われており、簿記1級ではこちらの処理の方がよく出ます。
振当処理の考え方としてまず重要なのが、為替予約をした時点で、支払うべき金額の11,200円が確定しているということです。すなわちこれは、為替差損益200円が確定しているということを指します。
ただ、そのうち、110円と111円の差額は当期に発生しているものですが、111円と112円の差額は、予約日から決済日の間の期間に生じるべき差損です。したがって、これをいったん前受収益として計上し、決算日に期間に応じて部分的に為替差損として計上します。
将来発生すべき為替差損について、まだ払わなくていい状態にしているので、前受収益、つまり負債として認識することになります。逆に、将来発生すべき為替差益について、まだ受け取っていないのであれば、前払費用として計上することとなります。
独立処理(原則)
これに対して独立処理では、ヘッジ対象である債務と、ヘッジ手段である為替予約を独立して処理します。
債務については、取引時・決算日・決済日にそれぞれ、為替差損に伴う債務の額を認識すれば事足ります。
ヘッジ手段である為替予約については、為替予約によって約束したことで発生した権利を、決算日・決済日にそれぞれ価値を算定し、財務諸表に反映させるという処理を行います。
上の例だと、決算日の相場も約定した相場も同じ金額のため、そこに価値はないということになってしまいますが、仮に差額が生じていた場合、その分を為替予約の価値と考え、為替差損・為替差益にて処理します。
決済日においても同様に、112円と115円の差額による、300円の価値が為替予約に発生したと考え、これを為替差益として認識します。
これにより、元の債務により発生する為替差損は最終的に500円から300円引いた200円となり、振当処理の場合と同じ金額になります。
さいごに
以上を踏まえて、それぞれの仕訳を整理すると次の通りです。
振当処理
借方 | 貸方 | |
取引日 | 仕入:11,000 | 債務:11,000 |
予約日 | 為替差損:100 前受収益:100 | 債務:200 |
決算日 | 為替差損:50 | 前受収益:50 |
決済日 | 債務:11,200 為替差損:50 | 現金:11,200 前受収益:50 |
独立処理
ヘッジ対象
借方 | 貸方 | |
取引日 | 仕入:11,000 | 債務:11,000 |
予約日 | 仕訳なし | |
決算日 | 為替差損:200 | 債務:200 |
決済日 | 債務:11,200 為替差損:300 | 現金:11,500 |
ヘッジ手段
借方 | 貸方 | |
取引日 | 仕訳なし | |
予約日 | 仕訳なし | |
決算日 | 仕訳なし | |
決済日 | 現金:300 | 為替差益:300 |
※決算日に仕訳なしになるのは、この時点で為替予約にプラスの価値もマイナスの価値も生じていないから
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