金田一耕助シリーズの一つ
白いゴムマスクと逆さまの脚
「犬神家の一族」と言えば、横溝正史の「金田一耕助シリーズ」の一つで、角川書店の角川春樹によって製作された映画です。
印象的な白いゴムマスクや、湖に浮かんだ大股開きの逆さまの脚が飛び出た遺体など、印象的なシーンが多く、幾度となく映画化・ドラマ化されています。
1976年に制作された「犬神家の一族」では、市川崑監督の下、主役の金田一耕助役を石坂浩二が演じ、日本映画の金字塔と称されています。
いわゆるお家騒動
話の筋としては、信州の財閥の長、犬神佐兵衛が亡くなったことをきっかけに、その財産を誰が継ぐかを巡って、事件が展開していくという流れです。
佐兵衛には、正妻がおらず、3人の女性との間にそれぞれ母親の異なる3人の娘がいましたが、遺言によれば、3人の娘のそれぞれの息子のうち、佐兵衛が面倒を見ていた野々宮珠世が配偶者として選んだ者に継がせるとのこと。
その遺言に端を発して、犬神家家宝の「斧(よき)・琴(こと)・菊(きく)」になぞらえて見立て殺人が起きるというお話です。
同じ人間の下に家族として生を受けながらも、財産を巡っていがみ合ってしまう家族模様と、それに伴う殺人事件を、金田一耕助という飄々としたキャラクターの主人公が解決していく流れが、見るものを惹きつける作品です。
いったい何がすごいのか?
圧倒的な構図の破壊力
そんな「犬神家の一族」という作品が、何度も映像化されているのは、1976年公開の映画が、極めて優れており、人々の印象に深く根付いている他にありません。
各シリーズを見ていただければわかりますが、まず間違いなく、1976年公開の映画が、もっとも緊迫感があり、重厚で、見ごたえがあります。
その理由の一つは、「圧倒的な構図の破壊力」です。
様々な作品でオマージュされていますが、やはり、白いゴムマスクと水面に浮かぶ逆さまの脚は、非常に印象的で、今なお破壊力のある構図になっています。
のちの映像化作品でも、踏襲はされているものの、結局は「真似事」となってしまっており、本作のオリジナルの構図の素晴らしさを超えることはできていません。
加えて、何気なく映るちゃぶ台の上の湯飲みや、キセルを吸うための煙草盆など、映画の「間」を作るための映像により、見事な「緩急」が生まれています。
そのあたりの構図の良さも、見るものを飽きさせません。
日本人のDNAに刻まれるノスタルジー
また、撮影の舞台となった長野県上田市の当時の映像が、「どこにでもありそうな宿場町」で、何か特徴的なものがあるわけではない、というのも魅力の一つです。
日本人のDNAに刻まれる、どこか懐かしい、ホッとするようなノスタルジックな風景の中で、ドロドロのお家騒動が繰り広げられることで、事件が「浮いた」存在となっており、見る人の印象にしっかりと残るような構成になっています。
のどかで落ち着くような場所であるにも関わらず、そこに異様な風貌の人間が居たり、特殊過ぎる事件が起きることで、「気持ち悪さ」を生み出し、最後まで見ないと気が済まないという気持ちにさせるわけです。
そこから、映画全体の「弛み」がなくなり、最後まで緊迫感がある作品となることで、映画としての魅力度がグッと持ち上がっていると言えます。
最後に
映画には、歴史に残る名作というのが数多く存在します。
本作も、まず間違いなくその一つで、のちの映像化まで考えると、他に類を見ません。
それは、単に話が面白いとか、名前が印象的だとか、そういっただけの話ではなく、市川崑監督が作品の中にちりばめた様々な仕掛けによるところが大きいです。
だからこそ、何度リメイクされても、1976年の映画が一番面白いと感じる人が多いのだと思います。
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