こんにちは。ヒトツメです。
今日は、2019年のフランス映画、「スペシャルズ!〜政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話〜」についてレビューしていきたいと思います。
自閉症ケア施設が舞台の社会派コメディ
この映画は、実際にフランスで自閉症ケア施設を運営するステファン・ベナムとダーウド・タトウをモデルに、二人の男が、政府からの施設への監査を受けながら、毎日自閉症の子どもたちと過ごしていく日々を描いた映画です。主人公のブリュノは、そんな大変な日々を過ごしながら施設を運営していきますが、そもそも無許可で運営しており、経営も赤字、定員もかなりオーバーしてしまっています。それでも前向きに日々奮闘するブリュノの想いに、心打たれます。
何か特別なことが起こるわけでもなく、この映画では、自閉症ケア施設の運営者ブリュノと、その周囲にいる支援者、そして自閉症を抱える子どもたちの日々の交流を描いている部分が大半です。出演者の多くは実際に自閉症をかかえており、スクリーンに映る自然な仕草や演者に向ける表情が非常に自然で、実際にドキュメンタリーを観ているような感覚になります。
時折見せるブリュノ役のヴァンサン・カッセルの、本当に困った表情や、デートを邪魔されたときのふるまいなども自然で、重いテーマを扱った映画である割に、深刻になりすぎず、軽い気持ちで観ることが出来ます。
あるべき姿を求めて
この映画を通して、監督や演者が伝えたかったことは、問題を解決するための「あるべき姿」の定義の難しさだと感じました。ブリュノの運営するケア団体「正義の声」では、先述の通り、定員オーバーになっていますし経営も赤字です。また、支援員も何かの資格を持って働いているわけではない人が多く、中には社会から半ばドロップアウトしてきたような青年も含まれています。
ブリュノは、ただ求められるがまま、ただ周囲が期待するままに多くの人を自らのテリトリーに受け入れ、支援し、指導し、自立心を育てていきます。
政府の役人は、それらが法律や規則に反しているのではないか、と監査を実施しますが、結局、政府の役人が求めているのは建前的な健全さでしかなく、本当に多くの人が求めている答えとは大きくかけ離れていることが分かります。
作品の中で、意思が言うセリフの中で、「自閉症は、重症化すればするほど適切なケアを受けられない傾向にある」という趣旨のものがあります。ブリュノはそんな矛盾に、果敢に立ち向かい、多くの人たちを救おうと奮闘します。
この作品のタイトルからは、「施設を守るために裁判で戦い、最後に大逆転で勝利を収めた」といった話を想像しますが、ブリュノはただ今まで通りに過ごす中で、その勇気ある行動をただ何も言わず見せつけます。その背中は、非常に多くのことを語りかけてくるように感じます。
さいごに
この作品のフランス語でのタイトルは、「Hors normes」です。英語でいうと「Outstanding」つまり、「並外れた・規格外の」という意味です。一見すると、自閉症の子どもたちをケアする、ブリュノや周囲の支援員の、並外れた愛を表しているように感じます。
ただ、この作品の舞台となった頃のすぐあと、2017年4月に、フランス政府は特例で無許可の支援団体の暫定的な運営を許可します。個人的には、この作品のタイトルは、そんな特例を認めなければならないような社会の異常さを、表しているようにも思います。
是非そんな社会的な背景やタイトルに込められた監督の考えにも思いを巡らせながら、多角的な視点で観ていただきたい映画です。
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