こんにちは。ヒトツメです。
今日は、ラッセル・クロウが主演して、アカデミー賞7部門にノミネートされた1999年の「インサイダー」のレビューをしていきます。
タバコ業界の不正を暴いた社会派ドラマ
このお話の舞台は、1990年代初頭のアメリカで、当時は今ほどタバコが人体に害があるということが分かっていない時代でした。ラッセル・クロウ演じる主人公ジェフリー・ワイガンドは、実際にブラウン・アンド・ウィリアムソン(B&W社)に入社して研究開発担当副社長となるも、1993年3月24日に解雇され、その後、内部告発者としてタバコの害を世間に訴えかける人物です。
数々の嫌がらせや脅迫に堪えながら、CBSニュースの「60 Minites」という番組で、多くのタバコ会社がニコチンの人体に及ぼす影響に関する調査データを改ざんしようとしていると訴えます。
この映画の最大の魅力は、当時強い利権を持っていたタバコ業界にあらがおうとする内部告発者とそれを支えるジャーナリスト達のジャーナリズム精神だけではなく、そこに存在する極めて人間らしい苦悩です。
ジェフリーは、内部告発をすることで家族が危険にさらされ、妻からは非難され、非常に弱い立場に立たされます。それでも周囲に諭されて内部告発にまでこぎつける、まさに「自分との闘い」がしっかりと描かれており、シリアスな物語の展開を重層的にしており、非常に見ごたえのある作品となっています。
後悔はしている
なかでも、非常に印象的なセリフが、ジェフリーが「60 Minutes」のインタビューで答える、「内部告発をして後悔している」というものです。そんなことをしなければ、家族は危険にさらされず、幸せな暮らしを送っていたと思うと、ジェフリーは、自分のしたことを後悔せずにはいられません。それでも「告発には価値がある」と発言します。
ありきたりな物語で観られる、「偽りの幸せでなく、噓をつかない人生を送るべき」といった使い古された考えが、この一見矛盾した発言に、深い意味で込められており、ラッセル・クロウの絶妙な表情も相まって、深く心に刺さります。
現実社会では、実際に不正を暴くのは、不正をしている人を引きずりおろして自分がより良い立場を得るためということも少なくありません。そういう利己的な考えではなく、本当に社会のために行動を起こしたジェフリーは、映画として観る場合でなくても、非常に魅力的な人物だと思います。
1本の映画の中で、その魅力をさらに分かりやすく伝えられているところは、やはり監督や演者の力量の高さだと思います。
さいごに
僕自身、周囲の小さな不正の多くに目を瞑ってきました。社会的に大きく問題があると思わなかったし、それを指摘したところで自分の得にならなかったからです。逆に小さな不正でも、自分の得になると思えば、指摘せずにはいられませんでした。
この映画に出てくる登場人物も、中にはそういった利己的な考えで行動しています。ただ、ジェフリーの行動原理が明らかにそうではなく、そういうキャラクターが画面か表れているところも、この映画の魅力の一つだと思います。
思わず襟を正したくなる、ストーリー展開も面白い、良作だと思います。
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