こんにちは。ヒトツメです。
今日は、2019年のカンヌ国際映画祭で、男優賞とカンヌ・サウンドトラック賞を受賞し、アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされた、ペドロ・アルモドバル監督の、「ペイン・アンド・グローリー」という映画のご紹介です。
アルモドバル監督といえば、ペネロペ・クルスが主演し、多くの映画祭で賞を受賞した「ボルベール〈帰郷〉」の監督として知られている監督で、世界的巨匠です。「ペイン・アンド・グローリー」は、そんなアルモドバル監督の自伝的な映画で、まさしく主人公の苦痛と栄光を描いた、不思議な色気のある映画です。
アントニオ・バンデラスの魅力
この映画は、先ほど記載した通り、アルモドバル監督の自伝的な映画で、主人公のサルバドール・マヨも同じく、世界的な巨匠として知られる映画監督とされています。彼は幼少期貧しく、それ故にあまり多くを学ぶことができず無知であったことを恥じており、映画監督として成功した後も、人に言えないような恋愛経験をするなど、常に世の中に後ろめたさを感じながら過ごしてきました。比較的晩年になり、脊椎を悪くし、背中には手術痕が残り、心身ともに疲れ果てています。
そんな折、32年前の作品をもう一度上映したいというオファーを受け、それをきっかけに様々な過去と向き合い、偶然の助けも借り、亡くなった母との記憶を思い起こしながら、もう一度自分を見つめなおしていくというストーリーです。
僕はアルモドバル監督の作品をあまり観たことがありませんでしたが、主演のアントニオ・バンデラスは、彼の作品の多くに出ているそうです。
アントニオ・バンデラスというと、少し古いですが「マスク・オブ・ゾロ」のようなアクションをしたり、あるいは「レッスン!」の時のように激しく踊ったり、比較的華やかな役を演じることが多い俳優というイメージを持っていましたが、この映画でのアントニオ・バンデラスは、そのようなイメージとはかけ離れた、疲れ切った初老の独身男性を演じています。
何をするにも無気力で、薬物に走ったり、突然感情的になったりと、あまり褒められるべき人柄ではありません。しかしながら、何とも言えない妖艶な魅力を持っており、その魅力が映画に輝きを与えているように感じます。特に何かハラハラさせるようなこともしませんし、劇中で彼はすぐ居眠りをしてしまいますが、過去の栄光を持ちながら、それをひけらかすことなく、常に余裕をもって自由に振舞う姿が、魅力的に映っているのかもしれません。
上記のような、別な役どころでも、魅力あふれる男性としてスクリーンに映っていたので、そういう意味では、共通点があるかもしれません。
「レッスン!」の時は、アントニオ・バンデラスのダンスを見るだけでも価値があるなどといわれていましたが、この映画のアントニオ・バンデラスも、決してそうはなれそうにない魅力を持っており、そこに十分、一見の価値があると感じました。
仕事をするということ
この映画を観て、特にこのシーンが良い、といった感想を持つことはなかったのですが、僕がこの映画を通して非常に強く感じたことは、仕事をすることの意味を、きちんと考えることの大切さです。
そうやって言ってしまうと、非常に陳腐に聴こえてくるようにも思いますが、主人公のサルバドールがなぜ心身ともに疲れ切ってしまっているか、その疲れから抜け出すためには、どういったマインドが必要なのか、ということが、彼の過去の回想とともに徐々に浮き彫りになっていきます。
何か直接的に、彼の疲れを示すものは出てきませんが、その輪郭が徐々に明らかになり、それでいてなお霞んでいるような状態になることで、観終わった後も色々なシーンを想起させ、楽しませてくれる作品のように感じました。
皆さんも、何か理由はわからないものの、やる気が出なかったり、投げやりになったりすることがあると思います。そして、そういったものはたいていいつの間にか過ぎ去っていき、またいつもの日常に戻っていきます。
不調の原因は、人それぞれで、本当に様々な要因が重なり合って生じています。そして、ふとした何かがきっかけで、頭の中の霧が少しだけ晴れて、前を向いて頑張れるようになったりします。その過程が、自伝的な回顧と共にしっかりと描かれていて、観ているときより、観終わってから、非常に楽しめる作品だと感じました。
さいごに
そうはいっても、きちんと劇中に楽しませてくれる仕掛けはしっかりと施されています。最後に、「あ、そうだったのか」と思わせるようなシーンもありますし、ドキッとさせるようなシーンも各所に散りばめられています。
個人的には、スペイン語は聴いていて心地よい言語だと思っているので、そういう意味でも、楽しめる作品だと感じました。
各映画賞受賞も納得の、おススメの作品です。
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