イーストウッドの印象
88歳の主演
今回レビューする映画は、2018年公開の「運び屋」という映画です。
主演はクリント・イーストウッドで、公開時88歳。2012年の「人生の特等席」でエイミー・アダムスと共演して以来の出演となりました。
その後も「クライ・マッチョ」などに出演していますが、やはり第一印象は「年とったなぁ」という感じです。
顔全体に刻まれたシワは見るからに固く、その分人生経験を刻んできたといった印象を与えます。
ただ、やはりそこはハリウッド俳優、決して「落ちぶれた」という印象はなく、老練さ、あるいはそれを通り越すような魅力を身に着けているという印象を与えます。
実話に基づく物語
この作品は、ニューヨークタイムズに掲載された実話をベースにした話で、実際にこのお話と同じように、13億円分の麻薬を運んでいたサム・ドルニックは当時90歳だったそうです。
イーストウッド演じるアールは、昔から仕事人間で、家族からは疎まれますが、どこか憎めないキャラクターを持っており、カルテルの人間を含めて、少しずつ心を解きほぐすような温かさを持っています。
イーストウッドが長年培ってきた映画人生の中で会得した独特のキャラクターにぴったりとはまっており、「グラン・トリノ」のときのような厳しさと温かさを感じさせます。
残念なタイトル
内容との乖離
ここまでの話で何となく感じる通り、この話は、「いかにして捜査官の目をかいくぐって運び屋が荷物(麻薬)を届けるか」という話ではなく、「家族から疎まれる老人が運び屋という職を通してどう変わっていくか」という話です。
そこにはカルテルの人との人間関係や妻や娘、孫との関係、仕事に対する愚直さといった内容が含まれています。
「運び屋」というタイトルからは、「トランス・ポーター」のようなカーチェイスを期待しますが、決してそのような派手なシーンはなく、ゆっくりと、それでいて刺激的に時間がながれていきます。
原題が「The Mule」というのですが、これが「ラバ」を意味しており、アメリカの俗語で麻薬などの運び屋を指すそうです。
ラバは馬ほど足は早くないものの、愚直にものを運ぶという性質があるらしく、そういった意味も考えると、タイトルがこれでよかったのかはやや疑問です。
プロモーションも微妙に…
また、日本でのプロモーションもあまり好印象ではないのが、少し残念なところです。
ワーナーブラザーズのHPを見ると、最後に「果たして、男は逃げ切れるのか―――!?」と記載がありますが、決してそのような、カーチェイスを思わせるような内容ではありません。
金持ちになる必要はない
とはいえ、映画自体は非常に見ごたえがあり、心を打つものがある作品です。
作中、アールは運び屋の仕事で大金を手にし、羽振りがよくなります。
それは家族との失った時間を取り戻すための手段として選んだものでした。結果、アールは犯罪に手を染めたことで、家族との時間を失うかもしれないという恐怖とともに生きていくことになります。
お金は大事です。でもそれはその人の精神の安定をもたらし、周囲との良好な関係を築くことができていれば、それ以上は不要なものなのかもしれません。
仕事とは、家族とは、そしてお金とは、そういうものを考えさせる作品です。
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