こんにちは。ヒトツメです。
今日は、2000年にアカデミー賞脚本賞を受賞した、キャメロン・クロウ監督の「あの頃ペニー・レインと」のレビューです。
実にアカデミー賞では4部門にノミネートされ、ゴールデングローブ賞では、ミュージカル・コメディ部門の作品賞と、助演女優賞も受賞しています。
優等生の青春物語
この映画は、16歳で『ローリング・ストーン』誌の記者となり、のちに小説家・脚本家・映画監督となったキャメロン・クロウ監督自身の、記者となる前後の実体験をベースとした自伝的な映画です。
この映画の主人公ウィリアム・ミラーは、大学教授を務める厳格な母親に育てられた優等生で、飛び級で15歳で高校の最終学年となります。親からは将来は弁護士になることを期待され、ドラッグはおろか、流行りの音楽からも遠ざけられたまじめな生活を送っていました。
そんな家庭環境に嫌気がさした姉アニータは、日夜隠れてロックを聴き、徐々に母親と心がすれ違い、スチュワーデスになるために家を飛び出します。家を飛び出すとき、ウィリアムはアニータからこっそりロックミュージックのレコードを引き継ぎ、それがきっかけでロックにのめりこんでいきます。
この映画は、そんな不思議な縁でロックミュージックを知ったウィリアムが、ローリング・ストーン誌の記者として、スティルウォーターというバンドのツアーに同行取材をするという物語です。
バンドの取材をする中で、スティルウォーターの追っかけをするペニーレインと出会い、恋をし、様々なミュージシャンと出会う中で成長を遂げていくウィリアムの姿が、1970年代のアメリカの風景とともに、美しくも切なく映し出されます。
秀逸な脚本と画面の美しさ
この映画は、アカデミー賞脚本賞を取っていることからも、まず第一に脚本が極めて秀逸です。バンドを追っかけ、バンドメンバーと恋仲になりながらも、相手に本命の恋人がいることを知り落胆するペニー・レインの心の動きや、ペニー・レインに恋心を抱き、失恋に少し喜びを感じながらも悲しみを共有するウィリアムの微妙な心理を、非常に丁寧に描き出しています。
特に目立ったセリフは多くないものの、映画全体を通じて、登場人物の繊細な心の動きがしっとりと伝わってきます。
また、ウィリアムとバンドメンバーとの関係性も、友人でありながら取材対象であり、憧れのペニー・レインが追いかける嫉妬の対象であり、と、様々な側面があり、それらが入り混じった関係性が、会話や表情によって見事に表現されています。
また、全体的に常にしっとりとした画面構成で作られており、ロック・ミュージシャンの煌びやかな世界とは少し異なる、舞台裏の葛藤が非常によく表れています。文化祭の舞台裏で成功をかみしめるような感覚がずっと流れていて、登場人物と同じように、盛り上がりを外から楽しむことができるように思います。
また、1970年代特有のアメリカの街並みや特有の空気感が非常によく表現されており、「古き良きアメリカ」が画面からにじみ出ているように感じます。
さいごに
実体験をベースにした自伝的な作品というと、どうしても独りよがりな雰囲気が出がちですが、この映画は話の流れもスムーズで、非常にわかりやすく、きちんと観客のことを考えているように思います。映画に登場するスティルウォーターは架空の存在ですが、話の中で出てくるバンドやレコードはほとんどが実在するもので、挿入曲も当時のものが多く採用されています。
本当に好きなものに触れたあの頃の思いを観客と共有し、ともに楽しもうという監督の想いがあふれた、そんな映画だと感じました。
コメント