こんにちは。ヒトツメです。
今日ご紹介する映画は、アルゼンチン・スペインの映画、「永遠に僕のもの」です。ここのところスペインの映画がかなり多いですが、こちらもアカデミー賞外国語作品賞に出品された映画で、カンヌ国際映画祭では、「ある視点部門」で上映された映画です。
観終わった後の余韻
この映画は、とにかく、観終わった後の余韻がすごい映画です。話の筋としては、アルゼンチンに実在した連続殺人犯カルロス・ロブレド・ブッチがいかにして犯罪を繰り返し、いかにして捕まるかという話なのですが、いわゆる殺人犯のサスペンスものといった映画ではなく、終始明るい雰囲気で描かれる、どちらかというと恋愛映画のような雰囲気の映画です。
それでいて余韻がすごいというのが、主人公カルリートスの行動一つ一つが、常軌を逸しながらも、ものすごく共感できるように描かれていて、自分も同じような能力と感覚を持っていたら同じような行動をとっているだろうというのを強く感じさせるからです。
ただ共感をさせるだけだと、それで終わってしまいますが、常軌を逸した行動で、一見不可解でも、後から思い返して辻褄が合っていることに気が付き、カルリートスを「映画の主人公」たらしめていると強く感じさせるため、長く映画の余韻が続くように思いました。
彼は、目的のために手段を選びません。ただ、それは強い意思に基づくからというよりは、そのような選択を採らないことが、合理的ではないという理由に基づくものです。人間多少は我儘を言うものですが、ある意味それの究極の形態と捉えることができるかもしれません。そこに共感は抱けなくとも、納得はできるように思います。
また、そのような共感を呼ぶ行動の延長として、最終的に逮捕されてしまうという結末に向かっていく流れも、無理があるようでいて無理がなく、何とも不思議な気持ちが心に残り続ける感じがありました。
カミュの「異邦人」
この映画を観て、僕が最初に感じたのは、アルベール・カミュの名作「異邦人」との類似性です。僕はこの作品が非常に好きで、たまにどんな小説か聞かれると、「ママが死んで葬式で泣かなかった主人公が、太陽がまぶしいからと殺人を犯すという話で、読むとなぜ主人公がそんな理由で殺人を犯すか、理解できる話」と回答していますが、常軌を逸しながらも読む人の理解を誘うという意味で、非常に類似しているように思いました。
ただ構成が類似しているだけではなく、人間における、何らかの感情なのか機能なのかが欠如していると、きっと人はこんな行動をとるだろう、というある種の納得感があるキャラクターを作り上げているという意味でも、非常に近いですし、なんとなく自分の中にも同じような感覚があるのではないかと思わせるところも似ていると感じました。
さいごに
ちなみにこの映画、原題は「El Ángel」といい、英語でいうところのThe Angelという名前がついています。主人公のカルリートスは「悪魔のような美少年」といわれており、行動の残虐性はとても「天使」とは言えません。
ただ、結局天使と悪魔の違いは、神に仕えるかどうかの違いであって、自分たちの行動基準で動いたときに、理不尽な結果をもたらすことに変わりはないのかもしれません。題名も含めて、非常にメッセージ性の強い作品となっており、お薦めしたい映画です。
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