【趣味のお話】映画:家へ帰ろう

映画

こんにちは。ヒトツメです。

今日は、2017年アルゼンチン・スペイン制作の『家へ帰ろう』という映画の紹介です。
スペインの映画というと、ハビエル・バルデムやペネロペ・クルスといった、有名な俳優も多いですし、情熱的で華やかな映画を連想すると思いますが、今回の映画は、そういった映画ではなく、静かなロードムービーです。

主人公は88歳のユダヤ人の老人で、かつてホロコーストの際に友人に命を助けられた過去を持っています。アルゼンチンやスペインの映画でホロコーストの話?と疑問に思う方もいると思いますが、実はアルゼンチンはラテンアメリカで最大のユダヤ人人口を抱えているといわれています。

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静かなロードムービー

この映画は、ユダヤ人の仕立て屋の老人が、自分を老人ホームに入れ、家を売り払ってしまおうとする娘たちの元から逃げるように、かつての故郷ポーランドに向かい、そこでホロコーストの際に命を助けてくれた友人に会おうとするロードムービーです。やはりホロコーストがテーマの一つになっていますし、家族から厄介者扱いされる老人が主人公という意味では、決して華やかな映画ではないです。
ただ、一つ一つの描写が丁寧で、どことなくユーモアにあふれており、主人公のアブラハムのキャラクターも相まって、常に明るい気持ちで観れる、静かな良い映画です

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実に70年という歳月、アブラハムは、命の恩人であり親友であるピオトレックと、連絡さえ取っていませんでしたが、家を整理している中で、仕立て屋人生の最後に彼のために仕立てたスーツを見つけ、その日のうちにアルゼンチンからヨーロッパへ跳び、ピオトレックに会おうとします。
彼は様々な困難に出会いながらも、多くの人たちに助けられ、旅を進めていきます。

アブラハムは、非常に頑固な性格で、いわゆる、「商売上手なユダヤ人」といった金銭感覚を持っています。家族に対しても悪態しか付きませんし、親切にしようとしてくれる人たちにも、あまり愛想良く振舞ったりしません。それでも多くの人が彼を助けようとするのは、彼のひたむきさと、人間的な魅力によるものかもしれません。
多くの困難を乗り越え、ただただラストシーンに向かって進んでいく90分は、非常に濃密な時間を与えてくれます。

際立つアブラハムのキャラクター

中でも、この映画を際立って美しいものにしているのは、主人公アブラハムのキャラクターだと思います。人との距離が一定で、なんとなく近寄りがたく、いつも悪態を付いているけれども、それは相手が嫌いだからではなく、そういった距離感で居たいから、というだけです。
ただただ憎まれ口を聞くだけならば、嫌われてしまうと思いますが、「悪態を付きながらも相手のことをしっかりと見ている愛のある人」というキャラクターを相手に理解させ、その通りの距離感で接していきます。相手の第一印象通りのキャラクターで接し続けるという、極めて特殊な芸当によって、多くの人の協力を勝ち取っていきます。

また、彼の一番すごいところは、家族にも、そして孫娘にも、同じような感覚で接しているところです。その空気感を画面から伝えながら、観る人から愛されるアブラハムを演じるミゲル・アンヘル・ソラの演技力には、ただただ脱帽するばかりです。
微妙な距離感を保ちながらの、周囲の人との掛け合いが心地よく、何の変哲もない物語のはずなのに、途中途中で、キラキラとした魅力を、画面から感じることができます。

ツーレスという言葉と、ポーランドのウッチ

ちなみに、劇中でアブラハムは、ホロコーストの際に痛めたと思われる、不自由な右足を「ツーレス」と呼び、相棒のように扱っています。これはユダヤ人の言語であるイディッシュ語で、「困難」や「苦悩」という意味があります。
アブラハムは、不自由な右足だけの意味ではなく、その原因となった過去、自分の中に抱える「ポーランドへ帰らずに何かをやり残した気持ち」、そんな様々な困難と共にずっと生きているという意味でその言葉を使っているようで、アブラハムの人生の重みが伝わってくる言葉だと感じました。

また、アブラハムの故郷であるポーランドのウッチは、ポーランド第三の都市で、街角にアートがあふれる、とても美しい街だそうです。
コロナが蔓延して以降、海外旅行なんてもってのほか、という感じですが、いつか機会があれば、是非訪れてみたいと思いました。
そんな、画面から伝わる静かな美しさが魅力の、心にジンと来る映画です。

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